2つの愛。
みんなを平等に愛する女の子。
ひとりを一途に愛する男の子。
どちらが正しいだなんて、答えはない。
ただ、どちらも愛しているのは確かなことだ。
*------*
「っ・・・好きです!」
夕日が赤く染まってきた今日この頃。
幾度となく見てきた、この光景。
慣れてきた今では、もうどうってことないけど。
「じゃあ、お友達から・・ねっ♪」
お決まりのように繰り返されるこの会話。
ただし、男子の方は毎回違うけれど。
どうも思ってないのなら、断ればいいのに。
言ったってきっと、単なる幼なじみの俺には効果のないことだろう。
それなら最初から言わない方がいいに決まってる。
男子は顔を真っ赤に染めながら、その場を立ち去る。
そんな健気な男子に笑顔で手を振る一人の女子生徒。
「あっ、翔太っ♪待っててくれたんだ!」
笑顔でこちらへ小股でひょこひょこ歩いてくる、俺の幼なじみ。
「愛子が待っててくれって言ったからだろ」
そっけなく言い捨てると、愛子は頬をふくらませた。
昔はこんな愛子を、可愛いとか愛おしいとか・・思っていた。
だけど、もう何年もこんな告白のやり取りを見ていると、とてもじゃないけどそんな気持ちはどこかへ行ってしまった。
「ねねっ、翔太ってば〜っ!」
そんな愛子を置いていくと、愛子は思い切り俺の腕にしがみついた。
「あーっ・・愛子さ、こういうこと俺にしない方がいいと思うけど?」
「え、なんでー?」
や、なんでって・・一応俺は男だし。
他の人に見られでもしたら、間違いなく俺は目をつけられるだろう。
いや、既にもうつけられてるかもしれない。
しばらくすると、愛子は手を離した。
「なんか・・・翔太、冷たくなったね」
肩をすくめて、俯く愛子。
「幼なじみだからって、俺なんかに構ってないで好きな人くらい見つけろよ」
ため息をつきながら、愛子の頭をポンポン叩きながら言うと、愛子はそっと顔をあげた。
「好きな人・・・あたしにだっているもんっ」
バカにしないで、というような顔で俺の手を振り払って言った。
ていうか、意外だな。
なにも考えてなさそうな愛子に、好きな人がいたなんて。
「誰だよ?」
「いわなーい!」
そ、即答・・・・。
俺の質問を拒否するのは、これが初めてだ。
まさか、俺が冷たくしたから教えてくれないってか?
んなことで言わないとか・・子供だな。
「早く帰ろ〜っ!」
話を逸らすように、愛子が急いで歩き出す。
「ちょ・・前見ろってっ・・・・」
そばには階段。
それに気づかず愛子は階段の段差を踏み外した。
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「っと・・・だから前見ろって言ったろ・・・バカ」
俺は反射的に落ちそうな愛子に手を伸ばした。
「あっ・・・ありがと」
ちょっと泣きそうな声が聞こえたと思うと同時に、俺に抱きついてきた。
・・だから、こういうことするなって。
そう思っていても、今はんなこと言える雰囲気はなかった。
ふと気づくと、上から足音が聞こえた。
「っ・・・愛子、誰か来る」
だけど、愛子は手を離さなかった。
一体・・・・なんで------
「そんなのあたし、気にしないもん」
き、気にしないって言われても。
んなのそっちになくてもこっちにあるわ。
足音が近づいてきた。
男子生徒だったら、どう言い訳する?
しかも愛子のことを好きな人だったら。
俺の頭の中は、パニクっていた。
「・・・それに、こんなことするの翔太だけだもん」
・・・は?
その意味を理解する頭なんて、今の俺にはなかった。
足音が俺達の目の前で止まった。
そこには、一番恐れていた男子生徒の姿があった。
「あ・・・えっ、なんで・・」
それはさっき告白をしたばかりの人だった。
「ち、違うんだっ!これはっ」
俺は急いで愛子から離れようとした。
そのとき------
--ギュッ
・・・・え?
一瞬何かの間違いかと思った。
けど、間違いではなかった。
気づくと、愛子が俺に抱きついていた。
しかも、さっきよりも強く。
俺より背の低い愛子は、抱きしめると俺の腕の中にすっぽりと入る。
だけど、こんな状況で抱きつくバカがいるか!?
俺の頭はもうこんがらがって、何をどうすればいいのかわからなくなってきてしまった。
「あ、愛子っ!?め、めまいがしたんだな?そうなんだなっ?」
愛子が答えないことを願って、嘘の言葉を俺は並べまくった。
だけど愛子は、いとも簡単に首を左右に振るわせた。
俺は無理矢理愛子から離れると、男子生徒に言い訳しようとして、その人に駆け寄った。
「ちょ、勘違いするなって。さっき階段から落ちそうになったのを助けただけで・・・・」
身振り手振りでもうよくわかんねーってくらい説明した。
男子生徒は、俺より愛子の口から聞きたいらしく、愛子の方をずっと見ていた。
愛子は俺の隣に並ぶと、男子生徒に輝くような笑みを見せた。
「・・・ごめんね、この人あたしの彼氏なの」
なぜ笑顔で言うのか、俺はわからなかった。
その男子生徒は、肩をすくめてその場を立ち去っていった。
「で、どういうことだよ?」
なんであんなこと言ったんだ?
口からでまかせか?
「ふふっ♪だってあたし、翔太のこと大好きだもんっ」
きっと嘘だ、こいつ俺をからかってるな。
そう思いながら何気なく愛子の顔を見ると、愛子の頬は真っ赤に染まっていた。
は・・・?何赤くなってんだよ・・・。
「あ、愛子はみんな大好きだろ?俺もそうなんだろ?」
つい動揺して早口になる。
そんな俺の様子を愛子は微笑みながら見ていた。
「んーん、ずっと翔太だけ見てたもん。あたしの好きな人・・だもん」
そんな愛子に俺はデコピンをして走った。
遠ざかってくる愛しい人の声。
愛しさなんて、愛子に抱くのは何年ぶりだろう。
しばらくして振り返って目に入った愛子の転ぶ姿。
もろに見たからか、自然と笑いがこみ上げてきた。
俺は地面に突っ伏する愛子に近づいて、そっと手を伸ばした。
*------*
平等に愛する女の子。
一途に愛する男の子。
どちらでも愛と呼べるだろう。
なぜなら、どちらも愛しているのだから。
Today...2013/1/5....End